準決勝と同じく、川崎フロンターレのホームスタジアムである等々力陸上競技場で開催された第37回皇后杯の決勝戦。アルビレックス新潟レディース対INAC神戸レオネッサの対戦でした。皇后杯（全日本女子サッカー選手権）決勝戦でのこの顔合わせは、2011年、2013年、2015年と三度目。2011年、2013年は、神戸がこれまでに最も強かったときで、決勝進出にも驚きはなく、結果も（2013年はPK戦までもつれ込みましたが）二度とも神戸の勝利でした。新潟はリーグ戦などでふるわなくても、冬に強いというのか？今年も皇后杯では決勝まで勝ち上がってきました。

結果は、0-1で神戸が、今季で引退を表明している澤穂希選手のゴールで、これ以上ないストーリーを紡ぎ上げて、優勝しました。

ツイッターでは、NHK BS1の中継も含めて、メディアの対応があまりにも澤選手寄りだという意見や、この集客も一過性なのだろうといった否定的な発言が数多く散見されました。今日になって観たテレビ中継は、初っぱなから澤選手を大写しするところから始まりましたし、澤選手が得点した後からは、澤選手とともにあった女子サッカーの歴史を振り返る実況コメントもありました。表彰式後の澤選手の引退セレモニーも放送されましたし、放送のエンディングは澤さんのプレーオンパレードでした。でも少なくとも試合中は、新潟の情報も十分流してくれていると思いました。表彰式のときにも、準優勝の新潟の活躍も含めて、「女子サッカーのレベルは上がっている」という、解説の矢野喬子さんからのコメントもありました。また、その他の報道でも確かに澤選手を中心に据えたものが多いですが、レジェンドの引退という事象を含めて（一部、現地インタビューなどで澤選手へのコメントを前提にした取材などもあったようですが）、メディアの対応を変えていくのも結局、結果なのだろうという印象を持ちました。

現地でも、私がやや新潟寄りの席に座っていたとはいえ、新潟のサポーターの数・声援共に迫力が凄まじく、INACの応援を遙かにしのいでいて、決して当初心配されたような、新潟にとって完全アウェイの雰囲気ではなかったと思います。数多く集まったメディアのカメラは、試合中も圧倒的にINACの方を写そうとはしていましたが、試合の邪魔になるほどではなかったかと。余談ですが、等々力は陸上競技場ですが、また行きたいなと思わせるような快適なスタジアムでした。

澤選手のヘディングゴールは、CKを蹴った川澄奈穂美選手のボールと共に、本当に素晴らしく、結果としても最高でした。INACがCKをみんな澤選手に合わせてきていたところからもストーリーの演出は完璧でした。でも、だからこそ、勝利は新潟がもぎ取ってほしかったというのが個人的な思いです。この日に集まった観客は何と2万人超。等々力の二階席も開放させる勢いでした。この観客の中には、もちろん澤選手の引退試合を観たいという方も多かったでしょうが、それに加えて、2011年のW杯の時点から数年、リーグでダントツの強さを誇っていたINACの試合を観たかった方もいたのではないでしょうか。INACはW杯優勝以降、リーグの試合でもホームだけでなくアウェイでの試合の観客動員数も圧倒的で、女子サッカーの普及にも大いに貢献していたと思われます。そのINACが、日本代表選手を数多く抱えつづけながらも一時期のような強さがなくなっていたところを、澤さんの引退発表からまた盛り返してきて、再びINACの強さや、W杯で有名になった代表選手たちの活躍を観たいという方がいらしたのではないかと思います。そういう方々には、この結果について満足していただけたとは思いますが、もし新潟が勝利していれば、女子サッカーは澤さんだけじゃない、INACだけじゃない、他のチームにも女子サッカーの面白いところがたくさん観られるんだということを、もっと強く伝えられたんじゃないか、あるいは女子サッカーを初観戦なさった方が再び女子サッカーを観に来ていただくきっかけが、もっとできたんじゃないか。もちろん、INACの優勝ストーリーは感動的ですし、その監督が澤選手が中学時代からベレーザにいた頃に指導していらした、これまたベレーザのかつてのリーグ5連覇達成という伝説をお持ちの松田岳夫監督であったことは、さらにシナリオを強化する一因になったとも思いますので、INACの勝利でも即効的なよい影響は少なからずあると思います。でも長い目で見た、女子サッカー全体への影響を考えると、ちょっともったいなかったかなと。新潟の能仲太司監督は、なでしこジャパンのテクニカルスタッフから2013年に新潟の監督に就任した方で、なでしこジャパンのノウハウをなでしこリーグのチームに反映させてくださるのかなと期待していた方でもありました。残念ながら今季で退任なさるそうですね。監督のためにも勝ってほしかったです。新潟はこの試合、善戦したと思いますので、それらの点だけが残念でした。

って。でも。澤穂希選手がどれほどすごい選手であるか、引退を前にしたこの決定的な得点、シーズン最後を締めくくる皇后杯での優勝を達成したところを目の当たりにして、改めて思い知らされました。INACでは、澤選手の背番号8番を永久欠番にする案も浮上しているとか？「これからも女子サッカーをよろしくお願いします」と試合直後のインタビューで言っていらっしゃいました。選手としては、本当にお疲れさまでした。でも、これだけ強力な女子サッカーの歴史を紡いだ澤さんには、これからも女子サッカーを支える役目をどうぞよろしくお願いします、と言いたいです。

記事、今の時点でも各所から山ほど出ています。試合内容を伝える記事、澤選手のインタビューを採り上げた記事、大野忍選手、川澄奈穂美選手、鮫島彩選手などINACの選手やお母さま、ご主人の辻上氏からの、澤さんの劇的ゴール等へのコメント記事、ついでに、観戦中にトイレに行った間に澤選手のゴールが決まってしまった岩渕真奈選手（バイエルン所属）の記事など（笑）。神戸については地元紙が会員限定記事も含めて何本か、新潟に関しても地元紙が会員限定記事を含めてこれまでにないほど多くの記事を出しています。新潟ではパブリックビューイングが開催されたんですね～。盛況だったようで何よりです。全体としてはスポーツ紙ではスポニチ、サッカーメディアではゲキサカやフットボールチャンネルが充実しているようです。当方のツイッターでは（@nadeshiko_mini）、澤選手の小学生時代の所属チームの後輩に当たる現川崎フロンターレの中村憲剛選手のツイートと、時事ドットコムの短信を2本流しましたが、ここでは試合内容を伝える記事を中心に拾います。きっとライターの皆さんから改めてまとめ記事が出ると思いますが、それはまたの機会に。